木材供給不足「ウッドショック」への対応について

メディアではまだあまり取り上げられていませんが、現在、世界と日本国内で深刻な木材価格の高騰・供給不足になっているのをご存知でしょうか。これはオイルショックになぞらえて「ウッドショック」と呼ばれ、国内の木材業界、住宅業界では大変な混乱になっています。

ウッドショックの原因とは?

ウッドショックとは簡単に言えば、北米や中国における木材需要の増大と供給不足で日本に輸入材が入って来なくなり、それにつられて国産材の需要も増え入手困難になるという状況です。原因としてはいくつか挙げられますが、

・アメリカにおけるコロナ禍による住宅需要の増大:ステイホームやDIY需要、超低金利の住宅ローンが引き金

・中国の木材需要の増大:元々経済成長により需要が増大しており、コロナ禍からも早期に回復しつつある

・コロナ禍により木材輸送を担うシッパー(船便)不足

が事の発端とされ、それにより日本へ海外産の木材製品が供給されなくなっています。

日本の木材自給率は年々上がってきていますが、それでも建築用材の約50%を輸入に頼っています。特に価格とボリューム重視の大手ビルダーなどは主に構造材は輸入材を使っていますし、中小規模の工務店でも柱は国産だけれど太い木が必要になる梁桁などは米松やレッドウッド集成材といった輸入材を採用している所が多いです。

木材は他のパーツと違って、揃わなければ家が建てられません。これまで輸入材を使っていたビルダーなどは急いで国産材に切り替え、買い求めるようになりました。また、今後も国産材の需要が増えることを見越して、商社なども今ある製品在庫を買い付けるようになり、取り合いになっています。いま実際の需要がひっ迫しているというよりは、この仮需によって買い占めが起こり流通が混乱するという、コロナ初めの頃のマスクやトイレットペーパーと似たような状況になっていると思われます。国内の製材所さんによると、「おたくの木を売ってくれないか」と、これまで取引のなかった流通業者からもひっきりなしに電話がかかってくる状況だといいます。

実は前から予想されていたウッドショック

ウッドショックのもう一つの大きな原因は、

・世界における日本の購買力の低下により、資源獲得競争に負けていること

です。そもそも、住宅着工数の減少が年々進み木材需要量も落ちてきていた日本。人口減少や経済力の低下で、今後もその傾向は避けられず、世界のマーケットから見れば、日本の市場はあまり魅力的ではなくなっています。木材に対してジャパングレードと呼ばれる厳しい品質を求めながらこれから需要が落ちていく日本に売るよりも、莫大な需要が今後も増えていく、経済成長中の国に輸出した方がいいと考えるのは当然のことです。

これまでは、日本の商社が経済力により大量に木材を買い付けることで、コストを抑えながら輸入材を安定供給することができていましたが、それがいつかできなくなるだろうということは、実は木材業界では以前から言われてきました。それが今回、コロナが引き金になり一気に現実になったといえます。過去には、国産の木材が足りなければ南洋材、それがなくなれば北米材、欧州材、というように、商社がどこか次の代わりになる産地を見つけてきましたが、今回はもう見つけられなかったということでしょう。

また木材以外にも、建築資材としてはガルバリウムや断熱材、住宅設備なども最近値上がりしてきています。私たちの身近なところでは、ガソリンも上がってきていますよね。木材だけでなく、日本は国際的な資源獲得競争に負けてきているのではないでしょうか。

しかし木材のいい所は、国内で生産できる資源だということです。半分を輸入に頼っていたため、今すぐに増産体制を整えられる状況ではないかもしれませんが、輸入材のように船が止まれば完全に供給ストップしてしまうということはなく、林業からの流通をしっかりつなげればある程度の生産ができます。戦後の木材不足の時代からこれまで、需要に対するバッファとして機能してくれていた輸入材にこれからは頼り過ぎず、60年前に植林して成長した日本のスギやヒノキでしっかりと木材を自給できる林業をつくるチャンスです。

井上建築の対応について

ここまでの世界の大きな話はさておき、高知の小さな工務店である井上建築としてもウッドショックの影響がないわけではありません。私たちの対応について現状をお伝えします。

井上建築では、

・元々、柱、梁などの構造材から下地に至るまで、すべて国産材を使用していました。

また、

・製品市場の流通品を買うのではなく、メーカーである製材工場と直接取引をしています。

そのため輸入材の影響はほとんどありません。

国産材については、いま最もウッドショックの影響を受けて取り合いになっているのは市場に流通している製品です。製品市場でその時々に必要なものを仕入れて売っていたプレカット工場や問屋さんなどが、仕入れの値上がり、もしくはそもそも仕入れができないという状況になっています。

製材工場は丸太を仕入れて自社で製造するので、まだ丸太の高騰などは起きていないので比較的安定して生産ができています。私たちはこの製材工場に直接、木材を注文してきましたので、あとは信頼関係にはなりますが、現在見積している分については供給していただける見込みです。ただ、若干の値上がりは予想されます。

なお、井上建築では内装材になるフローリング等も、主に国産材を採用してきました。標準仕様である国産のスギはもちろん、一般的には中国産が多い広葉樹のフローリングも東北産の物をメーカーから直接仕入れています。東北のメーカーさんによると今のところ影響はほとんどないということです。今後、ウッドショックが内装材にまで影響するのかどうか不明ですが、国産品が比較的安定するのではないでしょうか。

私たちは、建物の耐久性やデザイン的な質感、安全安心、そして国内や地元の木材産業への貢献という理由で、輸入材に比べて割高でもできるだけ国産材を採用してきました。元々、祖父の代から日本建築を手掛けてきたので、国産の木を使うことはごく自然なことでもありました。そのことは今回のウッドショックを考えても、間違いではなかったと感じています。特に、木材の産地やメーカーさんと地道に信頼関係を結ぶことは大切なことだと痛感しています。

私たちはごく小規模な工務店ですから、木材業界に与えている影響などごくわずかですが、そういった林業の川上から川下までの信頼関係がもっと広がり、生産者にとっても利用者にとっても安心できる木材産業の形が構築されてほしいと思います。また住宅を建てるみなさまにも、「安ければいい」で輸入に頼りすぎることのあやうさと、国内の産地とつながり木を使うことの意味を理解していただければ幸いです。今回の危機が、そのきっかけになることを願っています。

これからも井上建築では、いい家づくりのために努力していきます。ウッドショックについて状況の変化などありましたら、続報をお伝えしたいと思います。