宿泊施設junos(ユノス)

新規事業として井上建築の子会社となるまちづくり会社(株)junosを設立し、奈半利町にて2025年3月より宿泊業をスタートしました。

所在:安芸郡奈半利町乙2652-4

設計・施工:㈱井上建築

運営:㈱junos

旧・山本旅館との出会いから

 今回のプロジェクトは、長年この地で営業されていた旧「山本旅館」の建物との出会いから始まりました。昭和14年に建てられた味わいのある建物は、魚梁瀬杉と思われる美しい天井板や、趣向を凝らした装飾、豊かな土間空間、そして昭和の雰囲気を残したタイルなど魅力的な建築物でしたが、後継者不在でこのままでは解体止む無しという状況にありました。不動産部として建物の処分についてご相談を受けましたが、この歴史ある建物を自分たちで活用したいと考えました。2024年7月に構想を始め、11月に着工および(株)junos設立。2025年3月開業に至りました。

築86年の建物をリノベーション

 旅館が閉館してから10年以上が経過していましたが建物は保存状態がよく、以前の持主である館主ご夫妻が大切に手入れされてきたことが分かりました。ご親族のご厚意により、思い出ある建物を譲り受けることができました。

 設計にあたっては、元の建物のよさを損なわず昭和の雰囲気を残しつつも、現代の旅行スタイルに合った形となるよう検討しました。1階の共用ラウンジとなる土間と座敷は畳の表替えをした程度で、照明とインテリアにより雰囲気を一新しました。室内にある井戸や手洗い場、凝ったデザインのアルミサッシはそのまま残しています。

 2階の客室は大幅に改修しました。襖で仕切られた大広間形式だった和室を間仕切り、個室化。可能な限り防音処置をしました。床は杉無垢フローリング、壁は珪藻土仕上とし、サッシはペアガラスにし断熱性を高めました。天井板や床の間の意匠はそのまま残しています。木の香りがして心地よく過ごせると好評をいただいています。

 水回りについては、便器の洋式化、洗面台とシャワールームの増設をしましたが、元々あった昭和デザインのカラフルなタイルは残しました。旅館の倉庫に予備のタイルがたくさん保管されていたため補修に使うことができ、ここでも女将さんに感謝しました。

 給排水は元の配管を活かすなどしてコストダウンも工夫しました。また、給湯器は薪・灯油併用ボイラーを導入し、燃料には建築端材や地域の山で育った木を使っています。温かいお湯を通して、高知の豊かさの源泉である森林とのつながりを感じられるようにしました。

地域と、歴史と、世界とつながる宿

 junosは単に寝泊まりするだけの宿泊施設ではなく、訪れる方と地域とを結び、高知東部の魅力を底上げすることを目指しています。夕食の提供を行っていないため、ゲストには地域の飲食店を紹介し街へ繰り出していただきます。1階のショップコーナーでは特産品を販売。また、宿の名前ユノスが由来する柚子を五感で感じられるよう、浴室には馬路村のゆずシャンプーやアメニティを設置。ラウンジには田野町でブレンドしていただいたオリジナルの柚子アロマが常に香り、柚子のウェルカムドリンクや無料で使える柚子調味料を提供するなど柚子づくしで楽しんでいただきます。

 また、さまざまな体験プログラムもご用意しています。1F座敷では土佐の「おきゃく」もできます。北川村のお皿鉢料理を物据に並べて行う昔ながらの宴会スタイルは、県外の方にも喜ばれています。宿を飛び出して、伝統的な街並みを散策するモーニング付きツアーも。さらには、ラウンジと厨房はレンタルスペースとして貸し出しており、地域の生産者さんや料理人が食事を提供する出張レストランや、講演会、音楽イベントなどを開催していきます。

 現在、日本のみならず海外からのお客様にも多くお泊り頂いています。開業までご協力をいただいた関係者の皆様や、難易度の高い工事を無事に仕上げてくださった職人の方々、そして建物をご提供いただいた山本旅館ご親族の皆様に心より感謝申し上げます。junosとは、ユズの学名citrus junosのこと。柚子が香るように高知の豊かさを体感できる宿にぜひお泊り下さい。