地鶏料理を味わう宿泊施設「ジローのおうち」(㈲はたやま夢楽様)

安芸市畑山に、幻の地鶏「土佐ジロー」の料理を楽しむお宿が誕生しました。

以前は同じく畑山地区で「はたやま憩の家」(安芸市の指定管理施設)としてお宿を運営されていましたが、施設の老朽化により新しく別の場所に宿泊施設を新築されることとなりました。

建設に向けては㈲はたやま夢楽様がクラウドファンディングで資金を募り、目標を大きく超える多くのご支援をいただきました。私達も多くの方々の声援と期待を背負うような気持ちで、設計・施工に取り組みました。

経緯についてはCFのページに詳細が書かれていますのでご覧ください。

ヒノキが香る玄関ロビー~お料理が主役の食堂

施設の建設場所は、畑山集落を一望できる高台の上になります。安芸市街から畑山線を北上して集落に入っていくと、赤い屋根がちょうど正面に見えてきます。

外観

外壁は畑山の自然豊かな風景に馴染むように、自然素材である焼杉を採用しました。焼杉は日本で古来使われてきた素材で、杉板の表面を焼くことで、耐久性を高める知恵です

玄関ロビー

内装は主にヒノキを使用しました。床の無垢フローリング、造作家具、カウンター、天井材もヒノキです。ヒノキは明るい色味で清潔感があり、また安芸市の木にも指定されています。天井材はスリットの入った小幅板風羽目板で、上質感を演出しています。

ロビーの南面には高さのあるFIX窓を配置し、朝晩にここでゆったりと畑山の景色を眺められるようになっています。

食堂は、可動式パーテーションによりつなげたり仕切ることができます。掘りごたつの上に設置したテーブルは高知県内の木工所で制作したヒノキ製。このお宿の主役である土佐ジローのお料理を引き立てるステージになります。お料理に集中できるよう内装はシンプルに仕上げ、照明もミディアム配光型のダウンライトで机上を明るく照らします。

土佐ジローを味わうお料理のフルコース

旅の疲れを癒すリラックス機能満載の浴室

脱衣室

2組限定のお宿に対して浴室を2室設置し、グループごとに貸し切りでご利用いただけるようになっています。脱衣室は木のぬくもりを感じる杉板の内装です。

浴室

浴室はハイグレードのユニットバスを採用しました。肩湯・腰湯の機能や、調光演出できるライティングなどリラックスできる空間です。広さは1624サイズと一般家庭の1.5倍で、お子様連れでも家族みんなで浴槽に入ることができます。

ユニットバスのため清掃性も高く、衛生的で、運営者にとっても管理しやすい仕様になっています。

畑山の自然をテーマにしたインテリアの客室

客室1「樫の間」

客室は、トイレと洗面がついた8畳の和室です。国産い草の畳が香り、窓からは畑山集落を抱く山の稜線が一望できます。東側のお部屋は、窓を開ければ清流の流れる音も聞こえます。

客室2「銀杏の間」

2部屋ある客室のインテリアはそれぞれ「畑山の山や川のブルー」「土佐ジローのとさかのレッド」をテーマカラーとし、床の間やトイレにアクセントクロスを配置しました。

地場工務店ができる非住宅建築・地域ビジネスのサポート

1.設計と工法

今回は非住宅建築物(簡易宿泊所)ということで一般住宅とは異なる様々な制約があり、設計事務所や消防署、保健所の助言を受けながらの設計となりました。

中でも、延べ床面積を200㎡以下とすることで確認申請が不要となり、申請に係るコストや時間を削減することができました。また、この約60坪というサイズの建築物なら、一般的な木造在来工法でも建設することができ、一般流通材を使用し地場工務店や地域の職人の手でつくることによるコストダウン、地域の林産業へ利益還元することや地域の業者の技術力向上にもつながったと思います。

また、間取りについては施主であるはたやま夢楽様と何度も打合せを重ねながら、お客様にゆったり過ごしていただく空間と、運営に必要なバックヤードの動線や機能を両立する設計をつくりあげました。さらに、感染症対策に必要な設備や、光熱費を抑え快適に過ごすための断熱性能・給湯設備など、宿泊施設の運営を支える性能面も工夫しています。

私たちは建築家さんのように洗練されたデザインをすることは得意ではありませんが、シンプルで素材のよさをいかした設計で、必要な機能を備えた居心地のよい設計をすることができます。

2.木材助成金の利用

一般住宅への助成制度は様々ありますが、小規模な非住宅建築物に対しては助成金の選択肢が少ないのが現状です。今回は、林野庁の「JAS構造材利用拡大事業」を活用しました。品質の明らかなJAS構造材を利用することで建物の性能を高めつつ、地域の木材活用にもつなげる取り組みです。「ジローのおうち」では、高知県産の無垢材(スギ、ヒノキ)及び国産の下地材、内装材をふんだんに利用したことは、地の素材を味わい地域づくりに貢献するというはたやま夢楽様の企業理念にも適っています。

3.ソフト面のサポート

料理に例えるなら、建物はその器であると考えます。主役はあくまで、建物の中で行われる事業であり、その場をつくり演出をするのが建築物です。

ハード面は必要な機能性能を備えた上で、中身であるソフト面のサポートも欠かせないと思います。以前から土佐ジローのファンでもあった私たちにできることとして、モニターとして料理の試食、施設の利用体験をして、家具インテリアの配置やオペレーションに対する改善アドバイスをさせていただきました。また、整理収納アドバイザーの知見をいかして、商品ディスプレイやアメニティの配置についてもより使いやすく美しい陳列を実作業しながらお手伝いしました。広報支援としては、施工写真の撮影と併せて商材写真の撮影にも立ち会いました。

このように一利用者として顧客目線から、また地域でビジネスを実践している事業者の知見から、ソフト面までもサポートする。気軽に相談していただける存在でありたいと思っています。

まとめ

井上建築は、建築や木を通して地域ビジネスを応援しています。

地域にとっては、外部から人を呼び込みファンを作る観光事業はとても大切な産業の柱です。地方への少人数旅行、自然や地域の名物をじっくり味わう滞在型の旅行がトレンドになっていく中で、はたやま夢楽様「ジローのおうち」のように大きすぎない設備投資で高付加価値の体験を提供することは、地域観光のこれからの主力になっていくと思います。

私達もより知見を積み重ねて、地域の身の丈にあった木造非住宅建築物の普及に取り組んでいきたいと思います。

「ジローのおうち」ぜひ、宿泊して滋味あふれる土佐ジローをご堪能下さい!