木造でつくる製塩ハウス
完全天日塩職人、田野屋塩二郎さんの元で3年間修行し独立されたお施主様ご夫妻から、製塩施設の建設をご依頼いただきました。
設計は、県内で天日塩の結晶ハウスを手がける設計事務所ピー・プラン様によるもので、高知県産材を使った木造平屋建て。農業用の強化ビニールを張り、特殊な金具との組み合わせによって結露水を逃がすなど設計の工夫がされています。構造が塩分で錆びないことや美観の面でも、木造が有利になります。
太陽光をできるだけ遮らないよう、細い部材で耐力を確保できるように、ビニールの強度なども考慮して設計されています。
海水を入れ塩をつくる木箱には、太陽の熱を集める黒いゴムシートにビニールを一つひとつ、お施主様みずからの手でかけられました。
海から汲み上げた海水は大型のタンクに貯蔵することで、安定して製造することができます。
高知でひろがる完全天日塩
製塩の方法にはさまざまありますが、加熱せずに完全に太陽と風の力だけでつくる完全天日塩は、世界的には乾燥地帯で主に行われており、日本のように高温多湿の地域ではとても珍しい手法です。
しかし、完全天日塩は他の製塩方法に比べて海水由来のミネラル量が圧倒的に豊富で、味わいも複雑で独特のものになります。そのため、味の決め手に天日塩を採用したい料理人や、健康志向の方に求められています。
高知県は海水がきれいで豊富な日照量があり、天日塩の製造に向いているそうです。ビニールハウスで高温の環境をつくることで、多湿な気候でも加熱せずに天日塩製造が可能となります。
製造において、電力を使うのはポンプと換気扇の運転のみ。室温60℃にもなるハウス内で太陽の熱で海水を蒸発させ、人の手で丁寧にかき混ぜ続けてつくるミネラルたっぷりの天日塩は、繊細な甘みや深みを感じる味わいのあるお塩です。
お引き渡し後の8月某日、お二人の創業式&命名式が行われ、参列させていただきました。
命名 田野屋紫蘭(しらん)様、田野屋白兎(はくと)様です。
式典では、関東からご夫婦で移住され休みなしで3年間修業されたお二人の想い、師匠である田野屋塩二郎さんの励ましのお言葉から、製塩職人という仕事の魅力やご苦労、誇りが伝わってきました。
式典の後は、海水を木箱にそそぐ入水式。正装されたご夫婦仲良くの作業です。
天日塩製造はすでに開始され一月ほど経っており、第一号のお塩が出来上がりつつありました。
私たちも入水の儀式をさせていただきました。
竣工から一月が経って、ハウスの木材もすっかり日焼けしていました。
お二人の門出に、そして高知の価値ある産業としての完全天日塩の広がりに、建物づくりを通して貢献出来たことを光栄に思います。
このハウスで育ったお塩を食べさせていただく日が待ちきれません!
設計:(有)ピー・プラン 建設地:安田町唐浜