菜の花や梅の花が咲き始め、春を感じる南国土佐の3月です。あたたかくなってくると、外へ散歩に出かけたり、自然と親しむ人の姿も見かけるようになりました。
園芸店にも花の苗が並び、ガーデニングや庭づくりのモチベーションも上がってくる季節ですね。今回は、忙しい子育て世代にもおすすめしたい”小さな庭づくり”についてご紹介したいと思います。
前編は、井上建築のショールームを事例に、お庭を作っていく過程とbefore→afterをご覧ください。
お庭のプランニングから完成まで
井上建築のショールーム兼事務所「木のここち」にも、去年10月に小さなお庭を作りました。建物が完成したのは真夏の時期。植物を植えるには暑すぎて適していなかったので、しばらくは何もしないまま、少し殺風景な状態で過ごしていました。
これはこれで、建物の形がよく見えてすっきりはしていますが、建物が丸見えだと何となく裸で外にいるようで落ち着かない感じもします・・・。砂利を敷き詰めただけの庭では、外に出てゆっくりすることもなく、ほとんど建物の中だけで過ごす日々が続きました。
秋になり涼しくなってから、安芸市の「はぎの造園」さんにお願いしてお庭をつくっていただきました。建物の外観や敷地に合わせて植栽計画、庭石の配置などプランを立てていただきました。
植栽する樹種の選定は、私たちの希望を織り交ぜながら、造園のプロである萩野さんにほぼお任せする形となりました。
コンセプトは、
- できるだけ日本や高知の山に自生している樹木を植えること
- 和にも洋にも合うデザインであること
- 森の中にたたずむような自然な雰囲気にすること
- メンテナンスが簡単なこと
萩野さんにお庭の平面図とパーススケッチを作成していただき、イメージをすり合わせていきました。平面図には、植栽の配置を。少ない本数の樹木を効果的に配置するには、室内から見える場所や、建物正面、アプローチ廻りなどに植栽すると、人の動線から樹木がよく見えて楽しめます。
玄関先のシンボルツリーになるサルスベリの木は、実際に植える予定の木をあらかじめ選んでいただき、その樹形や大きさもパースに描き込み、わかりやすくプレゼンしてくださいました。スケッチを見ているだけで、わくわくしてきます!
プランが決まって、いよいよ工事スタート。土入れ、植栽、石組、そして石臼など置物の配置で、およそ3日かけてお庭を作っていきます。10月とはいえ日差しが暑い中、職人さんたちの手作業で作り上げていきます。
樹木はその枝ぶりや形が映えるよう、また建物とお互いを引き立て合うように、植える向きがとても大切です。複数の方向から見て確かめながら、何度も何度も向きを調整しながら植えていきます。
そしてお庭が完成し、見違えるようになった建物の外観です。
違う角度からもビフォーアフターをご覧ください。
お庭があるのとないのとでは、こんなにも違うのかと思うほど、建物の表情も豊かに、また訪れる人を歓迎してくれるような、とても親しみやすい雰囲気になりました。シンボルツリーとして玄関先に植えたサルスベリは、ピンク色の花が青空にも映えて、とても華やかです。
道路側の庭にも土を入れて高さを上げ、石を組んでアプローチにすることで立体感が出ました。石の階段が、奥の庭にも入っていきたくなるように誘っています。
お庭があることで、建物もよりいっそう魅力的な姿に、そして、親しみやすい雰囲気に生まれ変わりました。
お庭があると暮らしも変わる
お庭をつくることで変わるのは、建物の見た目だけではありません。建物の中から見える景色が変わり、お庭とかかわることで暮らしにもさまざまな変化が生まれました。
陰影をたのしむ
木のここちのお庭のコンセプトは、建物の中にいても、森の中にいるように感じること。南面の窓のすぐ前に、室内からよく見えるように常緑樹や落葉樹を植栽しました。今はまだ木が小さいですが、大きくなれば夏は日差しを遮り、木漏れ日を落としてくれるでしょう。
冬になり葉が落ちても楽しめるのが、樹木の影。ロールスクリーンを下ろすと木の影がやさしく揺れます。昼間にあえてスクリーンを下すのが、ひそかな楽しみになりました。
季節を感じて
はぎの造園さんによる植栽は、季節が移ろうほどに「流石だなぁ」と感心させられます。季節ごとに花を楽しめるよう、花の時期が被らないものを選んで植えてくれたことがわかるからです。たとえばツバキの木が3種類植えてあるのですが、そのどれも花の時期が少しずつ違っていて、冬から春にかけてかわいらしい花がいつもどこかに咲いている状態が楽しめます。時には、花を一輪いただいて、部屋の中にも飾って楽しんでいます。茶花でもある椿は、たった一輪でもお部屋が華やぎますね。
木々の足元でも季節の草花が楽しめます。花が少ない冬の時期、少しいろどりが欲しいと思ってアリッサムやガーデンシクラメンを自分で植えてみました。花壇にしてしまうと、たくさんの花で埋め尽くさなくてはならないので大変ですが、このように石をランダムに配置した植栽なら、石の隙間にぽつぽつと植物があるだけでまるで自然の風景のようで様になります。全体的に和風でも洋風でもないデザインので、どんな花を植えても似合うと思います。
こんな風に、あまりお花の世話に手をかけられない人でも、少しの花を植えるだけでも楽しめるお庭になっています。草木にはネームプレートをつけていただいたので、知らなかった植物の名前を覚えていくのも楽しいですね。
小鳥たちの遊び場に
庭木を植えてから、今までいなかった小鳥たちがよく遊びに来るようになりました。よく来るのは、メジロのつがいとヒヨドリ。餌がない冬の時期はツバキの蜜をついばんでいます。
お腹を空かしているようだったので、ミカンを切ってヤマコウバシの木にさしてみました。一日に何度もやって来ては、一生懸命食べています。小さなメジロは嘴でつつくように。口の大きなヒヨドリは、ミカンの房ごと丸呑み、といった感じで行動に違いがあることに気づき、部屋の中から野鳥観察を楽しんでいます。
今ではすっかり人間にも慣れたようで、リビングの窓から見ていても逃げないようになりました。毎日来てくれるので、私たちもせっせとミカンを差し上げています。
人の遊び場、リフレッシュの場に
お庭ができてから、気分転換によく建物の外へ出ていくようになりました。植物を眺めたり、ついでに木や草花の手入れをしたり、空いているスペースに次は何を植えようかなぁと思案するような時間が増えました。デスクワークで煮詰まった時など、無心になって草むしりや落ち葉掃きをするのは、けっこういいリフレッシュになるんですよ。癒しとはこういうことなんだと思います。
色々な木や石、水場があるお庭は子どもにとっても面白いようで、よく遊んで(荒らして・・・)います(笑)さきほどの小鳥が餌を食べている様子も、喜んで見ています。お庭を通して、自然や生き物が好きな子どもに育ってくれたらいいなと思います。
このように、ただ眺めるだけでなく、人が積極的に関わってあげることで、お庭もどんどん変化してよくなっていくように思います。これからも少しずつお庭を整えたり広げたり、次は食べられる植物を植えたりして、もっといろいろな過ごし方、楽しみ方ができるように育てていきたいと思います。
お庭で変わる、木の家の暮らし。
「家」+「庭」が揃ってこそ「家庭」になる、という言葉を聞いたことがあります。家とは、中に閉じこもる殻ではなく、家の外や地域、自然とのほどよい関わりを持つことができる装置。あるいは外で元気いっぱい活躍するための、安心して帰れる場所という考え方もできます。家を美しく見せ、植物や動物、そして人の遊び場になる豊かな空間としてのお庭。お家づくりの際には、ぜひお庭づくりについても考えていただきたいと思います。
しかし、お庭ってメンテナンスが大変なのでは?忙しい私には無理!という先入観を持たれている方も多いと思います。そこで次回は、お庭のメンテナンスの方法や、ローメンテナンスで楽しめるお庭づくりのポイントについて解説していきたいと思います。