森からはじまる家づくり
井上建築の木の家づくりは、高知や日本各地の森林からはじまります。
60年や70年前に人の手で植えられ、山の中で大切に育てられてきたスギやヒノキが、人の手で伐りだされ加工され、木材という材料に生まれ変わって、その後また50年以上にわたり家を支え続けてくれます。何世代もかけて木を育て、住まいとなり住み継がれる、世代を超えた営みです。
家づくりの機会に、私たちの暮らしと森林とのつながりを感じていただきたいと思い、ご希望されるお施主様を木材産地ツアーへとご案内しています。
初めての嶺北地域へ
この日、新築住宅の上棟を翌週に控えたお施主様を、木材のふるさとである嶺北地域(本山町)へご案内しました。
安芸市にお住まいのお施主様は、同じ高知県内でも嶺北地域を本格的に訪れたのは初めてとのこと。吉野川や早明浦ダムのある雄大な景色を眺め、公園の中にあるスギ林、ヒノキ林を散策しました。山で生きている木に触れながら、スギとヒノキの特徴、またその他の広葉樹にまつわるエピソードもお話しながら、森林浴を楽しみました。
林の中で見つけたホウノキは、岐阜県などでは葉っぱが朴葉寿司に使われますし、木材は非常に安定性があることから、刀の鞘や、最近では木造人工衛星の材料としても活躍しています。宇宙ともつながっていくなんて、木って面白い。そんなお話をしながら・・・
製材工場で、大人の社会科見学
次に製材工場を見学。さきほど山で見たスギやヒノキが、丸太になって整然と並べられています。
ここでは、木材という素材の特徴や、どうして赤身(心材)と白太(辺材)があるのかなど、木のことを理解していただくためのミニ講座をしました。
何より、製材所は足を踏み入れた瞬間から、木のいい香り~!こんなに香りがする建材は他にないですよね。木って素敵です。
この日は、台車で大きなヒノキの丸太を製材していました。初めて見る製材機。大きな音を立てて帯鋸が木を挽いていく、迫力の製材シーンを見ることができました。
柱など規格が明確なものは、自動制御の製材ラインで挽くことが多いですが、このように少し大きな丸太や、特殊な材料を挽く場合は人の目で見ながら、木の特徴を読みながら一本ずつ製材することもあります。
だんだんと目が慣れてくると、お施主様から「これはスギ、これはヒノキですか?」などとご質問をいただくようになります。
挽いたばかりのしっとりした材料と、乾燥機にかけた後の製品を触り比べることもしました。生き物である木は伐ったばかりの状態では含水率100%を超えるとても多くの水分を含んでいます。それを20%以下まで乾かすことで、寸法が安定し強度も高い品質のいい木材になっていきます。
お家になる木とご対面!
最後に、製材品がストックされている倉庫へ。ここでは家の図面を見ながら、スタッフさんが必要な材料を一棟分そろえる作業をされています。
在庫の材料を見ながら、お家の設計に合わせて土台から大引、柱、梁、棟などたくさんの種類を過不足ないようにまとめてくださっています。
この時ちょうど、プレカットを終えたお施主様宅になる材料が並べられていて、ご対面することができました。
「○○様邸」とお名前が書かれた木材を見た瞬間、歓声を上げられたお施主様。今日の記念に、1本の土台にお名前と安全祈願・家内安全のお願い事を書いていただきました。
一緒に記念写真をパシャリ。
それまで家づくりの実感があまり沸いていなかったというご主人も、満面の笑みで喜んでいただけました。
「今日のツアーで、木の家にとても愛着が湧きました。今度もし嶺北の方と会ったら、我が家の木は嶺北産なんですよ!と話してみたいと思います!」
物語の結び目としての家づくり
私たちにとっては恒例行事となってきた、木材産地ツアー。それでも行くたびに、お施主様それぞれの感性を垣間見たり、学ぶことがあり、毎回感動があります。
実は私(有加)は先月も、本山町の森林・林業にまつわるイベントに参加し、この地域の山を訪れていました。本山町では50年先を見据えた持続可能な「森林ビジョン」を策定し、森や木にかかわる地域のみなさんが同じ目標に向かって活動していく取り組みをスタートされていました。
私たちは縁あって本山町・嶺北地域の木材で家づくりをしていますが、このように地域の林業を支えている方々の存在があってこそ、木の家をつくることができます。さらに、私たちは高知だけでなく東北や紀伊半島など日本各地の木を使っていますが、それぞれの産地に、木にかかわる方々の仕事や暮らしの営みがあるのです。
そのことを思うと、私たちの住む安芸市や地元の森だけでなく、関係する木材産地や日本全体の森林に対しても、利益を還元したり知恵を出すことで貢献していくことが工務店の責任ではないかと思います。今回のツアーでご案内いただいたスタッフさんの後ろ姿を見て、改めて気づかされたことでした。
世代を超えた森づくりと、住み継がれる家づくりの物語。その結び目としての工務店の仕事。産地ツアーのように、お施主様に森と出会い理解していただくきっかけづくりも、続けて取り組んでいきたいと思います。
ご参加いただいたお施主様、産地のみなさま、ありがとうございました。